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チャプレンからのメッセージ

2026年新生病院 スタート博士記念式説教

2026.05.01

ヨハネによる福音書12章24節

 「一粒の麦は、地に落ちて死ななければ、一粒のままである。しかし、死ねば多くの実を結ぶ。」
 病院には、目には見えない時間が流れています。それは、時計の時間ではなく、ここで出会い、ここで別れていった人々の、記憶の重なりです。静かな廊下の中に、やわらかな光の差す病室の中に、言葉にならなかった祈りのようなものが、残っています。この場所は、ただ病を治すための場所ではなく、人が人に出会い、その人生に触れていく場所です。その始まりに、宣教師と医師の歩みがありました。ウォーラー司祭とスタート博士。それぞれ一粒の歩みから、この歴史は始まりました。
 本日、私たちはスタート博士を記念し、その歩みを思い起こしています。しかしそれは、単に一人の優れた医師を讃えるためではありません。むしろ、その働きがどのようにこの地に根を張り、やがて新生病院というかたちを取り、そして今日にまで続いているのか――その「流れ」を受け取るために、私たちはここに集められています。


1.医療宣教という出発点

 スタート博士の働きを理解するためには、それが単なる医療活動ではなく、「医療宣教(メディカル・ミッション)」であったことを忘れてはなりません。19世紀から20世紀にかけて、キリスト教会は世界各地で医療活動を展開しました。それは、病を治すことと同時に、人の尊厳を回復する働きでもありました。当時の日本、とりわけ地方においては、十分な医療を受けることが難しい状況がありました。
その中で、海外から来た宣教師医師たちは、医療を通して人々に仕え、信仰と実践とを一つのものとして生きました。スタート博士もまた、その流れの中に立つ一人でした。


2.新生病院の成立とその意味

 スタート博士の働きは、やがてこの地に具体的なかたちを持つようになります。それが新生病院の成立です。病院とは単に医療を提供する施設ではありません。そこには、その時代の価値観が色濃く反映されます。新生病院が持っていた特徴は、「人を全体として見る」という視点でした。身体だけではなく、心や生活、そしてその人の背景にまで目を向ける。これは、近代医学が専門化・分業化していく流れの中にあって、むしろ失われがちな視点でもありました。しかしスタート博士たちは、その流れに飲み込まれるのではなく、人間の全体性に向き合い続けました。ここに、新生病院の医療の原点があります。


3.地域との関係の中で育まれた医療

 また、重要なのは新生病院が「地域との関係の中で」成立していったという点です。外から持ち込まれた医療が、そのまま定着したのではありません。地域の人々との関わりの中で、少しずつ形を変えながら根付いていったのです。そこには、信頼の積み重ねがありました。最初から受け入れられたわけではなかったでしょう。文化の違い、宗教への警戒、さまざまな隔たりがあったはずです。それでもなお、一人ひとりの患者に向き合い続ける中で、「この人たちは私たちの味方である」という信頼が育まれていった。その結果として、新生病院は単なる医療機関ではなく、地域にとって欠かすことのできない存在となっていきました。


4.苦しむ人と共にあるという選択

 当時、医療の対象となる人々の中には、社会から疎外されがちな人々も多く含まれていました。貧しさゆえに治療を受けられない人、病ゆえに距離を置かれる人。そうした人々に対して、スタート博士たちは距離を取るのではなく、むしろ近づいていきました。それは単なる医療行為ではなく、「誰がケアの対象となるのか」という問いへの応答だからです。スタート博士の働きは、その境界を押し広げました。誰もがケアされるに値する存在である。その確信が、実践として示されたのです。


5.一粒の麦としての歴史

 「一粒の麦は、地に落ちて死ななければ...」
スタート博士の働きは、決して華やかなものではなかったかもしれません。しかし、その歩みは確かに地に落ち、この地に根を張りました。そして時を経て、新生病院というかたちとなり、さらに多くの人の手へと受け継がれてきました。歴史とは、単なる過去の記録ではありません。それは、命のリレーの記録です。スタート博士から始まった一つの流れが、今、私たちの手の中にあります。


6.現代への問い

 では、この歴史は私たちに何を問いかけているのでしょうか。現代の医療は、高度に発展し、効率化され、多くの命を救う力を持つようになりました。その一方で、「人を全体として見ること」や、「共にいること」の価値は、見失われやすくなっています。新生病院の歴史は、静かに問いかけます。私たちは今、何を大切にして医療を行っているのか。その原点はどこにあるのか。スタート博士の歩みは、その原点を思い起こさせるのです。
 スタート博士の思いは、私たちのまなざしの中に、手のぬくもりの中に、静かに息づいています。あと少し、そこにいること。あと一言、耳を傾けること。その小さな一歩の中に、あの一粒の麦の命は、今も生きています。そしてその命は、また誰かの中で芽を出し、実を結んでいくのでしょう。私たちは、その流れの中に立っています。どうか神が、私たちをもその一粒として用い、この場所に、静かな実りを与えてくださいますように。

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